平成26年度 第1種 機械

2022年1月1日作成,2022年1月2日更新

目次

  1. 同期発電機の励磁装置
  2. 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の誘導負荷スイッチング試験
  3. 永久磁石式同期電動機の駆動法
  4. 銅の電解精製
  5. リアクトル
  6. 乳白ガラス球を用いた照明器具の照明計算
  7. メカトロニクスのデジタル制御

問1 同期発電機の励磁装置

同期発電機の界磁巻線に直流電流を供給し,同期発電機の端子電圧を一定に保持又は調整する装置を励磁装置という。近年製作される励磁装置の多くがサイリスタ励磁方式又はブラシレス励磁方式となっている。サイリスタ励磁方式には,同期発電機の主回路端子に励磁用変圧器を接続し,この出力を励磁電源に用いた自励方式が多く,励磁用変圧器とサイリスタ変換器を使用して励磁装置が構成される方式であり,同期発電機の界磁電圧を直接制御するため一般に応答性が優れる特長をもっている。一方,ブラシレス励磁方式は,同期発電機と同一又は直結した回転軸上に回転電機子形同期発電機及び回転整流器を設置し,ブラシ及びスリップリングを使用しないで同期発電機に直流の界磁電流を供給する方式であり,機械しゅう動部がないため,保守点検の簡素化が図れる特長をもっている。

同期発電機が定格運転している状態で,同期発電機の端子電圧が突然大きく低下した場合の励磁装置の出力電圧応答特性の一例を図に示す。

  • 励磁系頂上電圧 $V_\text{fc}$ [V] : 励磁装置の出力電圧(直流平均電圧)の最大値。
  • 励磁系電圧応答時間 $t_\text{R}$ [s] : 出力電圧が同期発電機の定格負荷状態における界磁電圧 $V_\text{fn}$ [V] から $V_\text{fc}$ との差の 95 % に増加するのに要する時間。
  • 励磁系電圧速応性 [s-1] : 0 ~ 0.5 s に得られる励磁装置の等価電圧変化の割合を $V_\text{fn}$ で割った値である。図で(斜線部 abc の面積) = (三角形 adc の面積)とするとき,
    励磁系電圧速応性 = $\displaystyle \frac{\bar{dc}}{0.5 \times V_\text{fn}}$ [s-1]
    となる。
  • 電力系統の過渡安定度を向上させるため,励磁系の応答が速いサイリスタ励磁方式のほかに,IEEE 421.1 記載の,$t_\text{R}$ が 0.1 s 以下であるハイイニシャルレスポンスの速応形ブラシレス励磁方式も使用されている。速応性の応答特性の一例として,励磁装置出力電圧が $V_\text{fn}$ から直線的に増加し,時間 0.1 s にて $V_\text{fc} = 2 \times V_\text{fn}$ に到達後,0.5 s までその $V_\text{fc}$ が保持された場合,励磁系速応性は約 3.6 s-1 となり,応答性が十分高いことが分かる。

励磁装置の出力電圧応答特性
図 励磁装置の出力電圧応答特性
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(1)

正解は(ホ)励磁用変圧器である。

(2)

正解は(ヨ)電機子である。

(3)

正解は(カ)回転整流器である。

(4)

正解は(ニ)電圧速応性である。

(5)

正解は(ワ)3.6 である。

問2 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の誘導負荷スイッチング試験

準備中

解答と解説を表示

準備中

問3 永久磁石式同期電動機の駆動法

同期電動機の基本的な構成を図に示す。同期電動機を高効率に,かつ,高速応答に可変速駆動するには,界磁極の位置に応じて固定子電流を制御する方法が用いられる。これは誘導電動機のベクトル制御と原理的に同じである。このような駆動システムにおいて,同期電動機に永久磁石式同期電動機を用いた場合をブラシレス DC モータと呼ぶことがある。

永久磁石式同期電動機でも直軸リアクタンス $X_\text{d}$ 及び横軸リアクタンス $X_\text{q}$ を定義することができる。永久磁石式同期電動機の構造にはいくつかの種類があり,永久磁石を回転子の表面に貼り付けた SPM(Surface Permanent Magnet)構造の永久磁石式同期電動機は,永久磁石を回転子内部においた IPM(Interior Permanent Magnet)構造と比べると,固定子電流による界磁磁束への影響をほぼ無視できる非突極機の特徴があり,従来からサーボモータを中心に最も多く使用されている。

インバータを組み合わせた SPM 構造の永久磁石式同期電動機駆動システムは,回転子の位置を検出して電流を流し,トルクを発生する。ここで,インバータ及び固定子巻線は三相で,図のような 2 極機モデルにおいて,U-U' 巻線による起磁力の方向に対して回転子の位置を $\theta_\text{r}$ とすると,固定子トルクの反力である回転子発生トルク $T$ は次式となる。

\[ T=-K[i_\text{U}\Phi_\text{a}\sin\theta_\text{r} + i_\text{V}\Phi_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{2\pi}{3}) + i_\text{W}\Phi_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{4\pi}{3})] \]

ただし,$K$ は比例定数,$\Phi_\text{a}$ は電機子に鎖交する磁束である。各相に正弦波電流

\[ i_\text{U}=-I_\text{a}\sin\theta_\text{r} \] \[ i_\text{V}=-I_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{2\pi}{3}) \] \[ i_\text{W}=-I_\text{a}\sin(\theta_\text{r}-\frac{4\pi}{3}) \]

を流すと回転子発生トルクは次式となる。

\[ T=\frac{3}{2}K I_\text{a} \Phi_\text{a} \]

同期電動機において,三相固定子電流による起磁力を合成した回転磁界と,回転する界磁極との間の角は,負荷状態によって変化する。この SPM 構造の永久磁石式同期電動機駆動システムでは,上記のように絶えず磁極に向かい合う固定子巻線に電流 $I_\text{a}$ を流すように制御しているので,この合成した回転磁界と回転する界磁極との間の角が常に直角に維持され,同じトルクを発生するのにほぼ最小電流で運転できる。

永久磁石式同期発電機の 2 極機モデル
図 永久磁石式同期発電機の 2 極機モデル
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(1)

正解は(ヨ)界磁極の位置である。

(2)

正解は(ホ)ブラシレス DC モータである。

(3)

正解は(ヲ)ほぼ無視できる非突極機である。

(4)

正解は(ニ)$\displaystyle \frac{3}{2}K I_\text{a} \Phi_\text{a}$ である。

(5)

正解は(ワ)直角に維持である。

問4 銅の電解精製

電線で用いられる高純度な銅は,熱化学的に得られた粗銅を電気精錬による一段のプロセスで,不純物濃度を 0.1 % 以下に小さくして作られる。この高純度化によって銅は柔軟性が増すと共に電気抵抗が小さくなる効果があり,電気精錬は実用的には欠かすことができない。銅の電気精錬では硫酸が電解液として用いられ,粗銅はアノードとしての機能をもつ。この電解液中で銅は 2 価イオンとして存在し,これが還元されて高純度の銅が得られる。銅の電解精錬プロセスでは銅のもつ溶解電位,又は析出電位を利用するが,簡単には元素のもつイオン化傾向の差を用いると考えてよい。この際,生成する銅の質量はファラデーの電気分解の法則に従い,用いた電気量に比例する。ここでファラデー定数が用いられる。ファラデー定数は電子素量とアボガドロ数の積である。具体的には有効数字 3 桁で表して 96 500 C/mol が使われることが多い。

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(1)

正解は(ト)0.1 である。

(2)

正解は(ハ)電気抵抗である。

(3)

正解は(ヌ)アノードである。

(4)

正解は(ヨ)2 価である。

(5)

正解は(リ)アボガドロ数である。

アボガドロ定数(Avogadro constant)とは,物理量 1 mol を構成する粒子(分子,原子,イオンなど)の呼数を示す定数である。国際単位系(SI)における物理量の単位モル(mol)の定義に使用されており,2019年5月20日以降,その値は正確に 6.022 140 76 × 1023 mol-1 と定義されている。アボガドロ定数の記号は $N_\text{A}$ または $L$ である。

参考文献

問5 リアクトル

インダクタンス $L$ が 20 mH の空隙付き鉄心リアクトルがある。このリアクトルの磁路の断面積 $S$ は 100 cm2 であり,巻線の巻数 $N$ は 256 であえる。$S$ は全磁路にわたって一定で,漏れ磁束,鉄心の飽和,残留磁束などは無視できるものとする。また,巻線の抵抗は無視できるものとする。

このリアクトルに実効値 $V$ = 400 V,$f$ = 50 Hz の正弦波交流電圧を印加したとき,定常状態における鉄心の最大磁束密度は $B_\text{m}$ = 0.703 T となる。

このリアクトルに直流電流 $I_\text{d}$ = 100 A を通電したとき,鉄心の磁束密度は $B_\text{d}$ = 0.781 T となる。

図の最上段に示すような,ピークピーク値 $V_\text{pp}$ が 200 V で周波数が 300 Hz ののこぎり波電圧 $v_\text{r}$ をこのリアクトルに加えた。このときの電流 $i_\text{r}$ の波形に最も近い波形は図 c であり,$i_\text{r}$ のピークピーク値 $I_\text{pp}$ は4.16 A である。

のこぎり波電圧の 300 Hz 成分の実効値は,45.0 V であった。このときの電流の 300 Hz 成分の実効値は 1.19 A である。

のこぎり波電圧を加えたリアクトル
図 のこぎり波電圧を加えたリアクトル
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(1)

正解は(ロ)0.703 である。

(2)

正解は(カ)0.781 である。

(3)

正解は(ワ)図 c である。

(4)

正解は(ハ)4.16 である。

(5)

正解は(ヨ)1.19 である。

問6 乳白ガラス球を用いた照明器具の照明計算

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

直径 250 mm の乳白ガラスの照明器具が,奥行き 2.7 m × 間口 2.7 m,天井高さ 2.3 m の室内の天井中央から,照明器具中心まで 0.55 m の長さでつるされている。照明器具内部には全光束 $\phi$ = 810 lm のランプがあり,乳白ガラスで光が均等に拡散し 1 067 cd/m2 で輝いている。このような設定において,以下の三つの問題を考える。なお,乳白ガラス内面の反射率 $\rho$ = 20 %,透過率 $\tau$ = 65 %,残りはガラスで吸収され,ガラスの厚みは無視できるものとする。また,室内各面等での相互反射は無視できるものとする。

a. 照明器具直下から水平に 0.75 m 離れた机上面 A 点(床上 0.75 m)の水平面照度を求める。

照明器具が 1 067 cd/m2 で均等に輝いているので,A 点方向の光度は約 52.4 cd である。照明器具と A 点との距離は,照明器具の直径より十分大きいので,照明器具を点とみなして机上面 A 点の水平面照度を計算すると 26.8 lx となる。

次に,机など障害物がない場合の室全体の平均照度を求める。

光束は,光度と立体角の積である。また,立体角は,光中心から半径 1 の単位球上にある面を仮定したときのその表面積でもある。この関係から照明器具の全光束が求まるので,室空間全体の平均照度は 16.7 lx となる。

c. 照明器具内の相互反射による光束が,照明器具の全光束に占める割合を求める。

照明器具の全光束は,ランプ全光束の直接透過成分に照明器具内部での相互反射成分が加わった値である。相互反射による内面の間接照度 $E_\text{i}$ は,球内の表面積を $S$ としたときに次式で求めることができる。

\[ E_\text{i} = \frac{\phi}{S} \times \frac{\rho}{(1-\rho)} \]

照明器具内の相互反射による光束は,照明器具の全光束の 20.0 % を占める。

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π は 3.141 6 である。

(1)

正解は(ト)52.4 である。

(2)

正解は(リ)26.8 である。

(3)

正解は(ロ)立体角である。

(4)

正解は(カ)16.7 である。

(5)

正解は(ハ)20.0 である。

参考文献

問7 メカトロニクスのデジタル制御

問6及び問7は選択問題であり,問6又は問7のどちらかを選んで解答すること。

両方解答すると採点されません。

メカトロニクス装置は,コンピュータやエレクトロニクスを駆使した高度化された機械である。メカトロニクスシステムの基本構成は,制御対象である連続時間システムとデジタル制御である離散時間システムとが含まれる図 1 に示すような構成が一般的である。このようなシステムは,デジタル制御演算機からみたモデルとして,$z$ 変換を用いてパルス伝達関数で表現することによって,制御対象とデジタル制御演算器とが統一的に解析できる。すなわち,図 2 のサンプリング周期 $T$ をもつ D/A 変換器で,零次ホールド要素 $G_0 (s)$ と伝達関数 $G(s)$ とをカスケード結合している連続時間システムに対するパルス伝達関数 $G^{*}(z)$ は,

\[ G_0 (s)= \frac{1 - e^{-sT}}{s} \]

であるので,

\[ G^{*}(z)=Z[G_0 (s)G(s)]=(1-z^{-1})Z[\frac{G(s)}{s}] \]

と表現できる。同様に,デジタル制御演算器に合わせて図 1 の A/D 変換器もパルス伝達関数で表現することによって統一的な解析が可能である。

このような解析において,A/D 変換器の前段では,サンプリング周波数の $\displaystyle \frac{1}{2}$ の周波数であるナイキスト周波数と呼ばれる周波数以上の成分を,急峻に減衰させるフィルタを設けたことでエイリアシング現象を防止することを前提にしている。さらに,対象となる A/D 変換器では,アナログ量をサンプリングして有限のビット数からなるデジタル値に変換することによる量子化誤差がむしできることを前提に扱われている。

図 1
図 1
図 2
図 2
解答と解説を表示

(1)

正解は(ハ)$z$ 変換である。

(2)

正解は(ホ)$\displaystyle \frac{1 - e^{-sT}}{s}$ である。

(3)

正解は(チ)ナイキストである。

(4)

正解は(ル)エイリアシングである。

(5)

正解は(ヨ)量子化である。

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