サージ現象

2019年1月作成,更新

サージ伝搬

まず,サージの伝搬について考える。電線路に雷が直撃したとき,電線路には高い周波数の雷撃電流が注入される。架空電線路において,電流(つまりは電子)は,ほぼ光速(約 3 ×108 m/s = 300 m/μs)で伝搬する。一方,電力系統の電線路は 数百 km に及ぶことがあり,高い周波数の雷撃電流では,ある地点とある地点の電流の大きさは異なる。雷や開閉に伴い発生するサージは,高い周波数を有するため,伝搬を考慮しなければならない。このように高い周波数(つまり短い波長)に対して比較しうる程度の長さ,またはそれ以上に長い線路では,分布定数回路として取り扱う。

例えば,雷サージの中心周波数が 500 kHz の場合,伝搬速度を光速と仮定すれば,波長は 600 m となる。一方,商用周波数の 50 Hz では,同じく伝搬速度を光速と仮定すれば,波長は 6,000 km となる。

雷サージ伝搬のイメージ
雷サージ伝搬のイメージ

分布定数回路

長距離送電線路においては,回路定数として抵抗 $R$,インダクタンス $L$ および静電容量 $C$,漏れコンダクタンス $G$ が線路に沿って一様に分布しているものと考える。このように,回路定数が線路の長さ方向に分布した回路を分布定数回路(distributed constant circuit)という。

分布定数回路
図 分布定数回路

サージの反射・透過

電線路の特性インピーダンス(サージインピーダンス)が異なる点での,サージの反射(reflection)・透過(permeation)について考える。

サージの反射・透過
図 サージの反射・透過

特性インピーダンスが $Z_1$ の電線路を伝搬するサージ電圧・電流を $v_1$,$i_1$ とおく。特性インピーダンス $Z_2$ の電線路との接続点で反射するサージ電圧・電流を$v'_1$,$i'_1$,透過するサージ電圧・電流を $v_2$,$i_2$ とおくと,電圧・電流,特性インピーダンスについて,次式が成り立つ。なお,電流については上図の右方向を正としている。

\[ v_1 + v'_1 = v_2 \\ i_1 - i'_1 = i_2 \\ \frac{v_1}{i_1} = Z_1\\ \frac{v'_1}{i'_1} = Z_1 \\ \frac{v_2}{i_2} = Z_2 \]

サージ電圧の反射係数と透過係数

サージ電流の式に特性インピーダンスの式を代入すると次式となる。

\[ \frac{v_1}{Z_1} - \frac{v'_1}{Z_1} = \frac{v_2}{Z_2} \]

上式と前述のサージ電圧に関する式 $v_1 + v'_1 = v_2$ より,$v_1$ と $v'_1$ の比で表される反射係数と,$v_1$ と $v_2$ の比で表される透過係数を求める。

\[ \frac{v'_1}{v_1} = \frac{Z_2 - Z_1}{Z_2 + Z_1} \] \[ \frac{v_2}{v_1} = \frac{2Z_2}{Z_2 + Z_1} \]

サージの反射・透過の例として,$Z_2 = \infty$ (開放端),$Z_2 = Z_1$ (同一線路内),$Z_2 = 0$ (接地端)の反射係数・透過係数を整理すると次表のようになる。

表 開放端,同一線路内,接地端におけるサージ電圧の反射係数と透過係数
条件 反射係数 $\frac{Z_2 - Z_1}{Z_2 + Z_1}$ 透過係数 $\frac{2Z_2}{Z_2 + Z_1}$ 説明
$Z_2 = \infty$ (開放端) 1 2 開放端では,正反射する。(開放端電圧は 2 倍)
$Z_2 = Z_1$ (同一線路内) 0 1 同一線路内において,サージは全て透過する。
$Z_2 = 0$ (接地端) -1 0 接地端では,負反射する。(接地端電圧は 0)

サージ電流の反射係数と透過係数

サージ電圧の式に特性インピーダンスの式を代入すると次式となる。

\[ Z_1 i_1 + Z_1 i'_1 = Z_2 i_2 \]

上式と前述のサージ電流に関する式 $i_1 - i'_1 = i_2$ より,$i_1$ と $-i'_1$ の比で表される反射係数と,$i_1$ と $i_2$ の比で表される透過係数を求める。

\[ \frac{-i'_1}{i_1} = \frac{Z_1 - Z_2}{Z_1 + Z_2} \] \[ \frac{i_2}{i_1} = \frac{2Z_2}{Z_1 + Z_2} \]

サージの反射・透過の例として,$Z_2 = \infty$ (開放端),$Z_2 = Z_1$ (同一線路内),$Z_2 = 0$ (接地端)の反射係数・透過係数を整理すると次表のようになる。

表 開放端,同一線路内,接地端におけるサージ電流の反射係数と透過係数
条件 反射係数 $\frac{Z_1 - Z_2}{Z_1 + Z_2}$ 透過係数 $\frac{2Z_2}{Z_1 + Z_2}$ 説明
$Z_2 = \infty$ (開放端) -1 0 開放端では,負反射する。(開放端電流は 0)
$Z_2 = Z_1$ (同一線路内) 0 1 同一線路内において,サージは全て透過する。
$Z_2 = 0$ (接地端) 1 2 接地端では,正反射する。(接地端電流は 2 倍)

特性インピーダンス

無限長線路の場合には,いかなる地点でも電圧,電流の比は常に $Z_0$ となる。この $Z_0$ を線路の特性インピーダンス(characteristic impedance)という。無限長線路でサージの伝搬を考える場合には,特性インピーダンスをサージインピーダンス(surge impedance)と称す。

サージの伝搬,反射

サージの伝搬,反射について理解を深めるために,長さ 60 km,特性インピーダンス 500 Ω,サージ伝搬速度 300 m/μs の無損失電線路を無負荷充電するときに生じるサージ電圧の伝搬,反射について考える。

開放端と接地端でのサージ電圧の往復反射

電圧の大きさ 1 V の直流電圧源を 1 ms で投入したとき,投入サージは電線路を往復する。電線路の末端に到達したサージ電圧は,開放端であるため正反射し,直流電圧源に戻ってきたサージ電圧は,電源端で負反射する(理想的な直流電圧源の内部抵抗は 0 Ω)。

開放端と接地端でのサージ電圧の伝搬・反射
開放端と接地端でのサージ電圧の伝搬・反射

電源端(0 km),電線路の中間地点(30 km),電線路の末端(60 km)の電圧波形は以下のようになる。

電源端(0 km)の電圧波形
電源端(0 km)の電圧波形(開放端と接地端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電源端では,スイッチを投入する 1 ms 以降,常に電圧は 1 V で一定である。

電線路の中間地点(30 km)の電圧波形
電線路の中間地点(30 km)の電圧波形(開放端と接地端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電線路の中間地点(30 km)では,スイッチ投入後,0.1 ms (30 km ÷ 300 m/μs)で 1 V の電圧サージが到達する。さらにその 0.2 ms 後( (30 km + 30 km) ÷ 300 m/μs)に開放端で正反射してきた 2 V のサージ電圧が到達する。それが送電端で負反射してくるとき(さらに 0.2 ms 後)に 1 V に戻り,さらに開放端で反射してくる(さらに 0.2 ms 後)と 0 V となる。これを 0.8 ms 周期(4 片道 × 60 km ÷ 300 m/μs)で繰り返す。

電線路の末端(60 km)の電圧波形
電線路の末端(60 km)の電圧波形(開放端と接地端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電線路の末端(60 km)では,スイッチ投入後,0.2 ms (60 km ÷ 300 m/μs)で 1 V のサージが到達し,開放端で正反射し,2 V となる。その反射波が電源端で負反射し 0.4 ms (2 片道 × 60 km ÷ 300 m/μs)後に戻ってくると,0 V となる。さらにその 0.4 ms 後には再び 1 V のサージ電圧が到達し,開放端で正反射し,2 V となり,以後,これを 0.8 ms 周期(4 片道 × 60 km ÷ 300 m/μs)で繰り返す。

開放端と接地端でのサージ電圧の往復反射のアニメーションを以下に示す。

図 開放端と接地端でのサージ電圧の往復反射のアニメーション

(参考)MATLAB や Octave での可視化

MATLABOctave を用いて,「開放端と接地端でのサージ電圧の往復反射」を可視化してみた。

可視化するコードを以下に示す。長さ 60 km,特性インピーダンス 500 Ω,サージ伝搬速度 300 m/μs の無損失電線路を無負荷充電するときに生じるサージ電圧の伝搬,反射を可視化する。

clear all;
close all;
%===パラメータ===%
LL=60e3;  %Line Length [m]
c0=3e8;   %Propagation Velocity [m/s]
CFL=1;    %Courant-Friedrichs-Lewy Condition
NX=101;
NT=420;

dx=LL/NX;
dt=CFL*dx/c0;
x=0:dx:dx*(NX-1);

%===サージ電圧の前進波,後進波(初期値 0)===%
VB=zeros(1,NX);
VF=zeros(1,NX);

for T=0:NT
	%===plot による可視化===%
	plot(x/1e3,VB(1,:)+VF(1,:),'b-');
	axis([0,max(x)/1e3,-2.5,2.5]);
	xlabel('x [km]');ylabel('Voltage [kV]');
	title(['T=' num2str(T) '/' num2str(NT) ', t=' num2str(T*dt*1e6) ' \mus']);
	grid on;
	drawnow;

	%===電圧サージの伝搬===%
	VB(1,1:NX-1)=CFL*(VB(1,2:NX)-VB(1,1:NX-1))+VB(1,1:NX-1);
	VF(1,2:NX)=-CFL*(VF(1,2:NX)-VF(1,1:NX-1))+VF(1,2:NX);

	%===開放端,接地端での反射===%
	VB(1,NX)=VF(1,NX);	%開放端での正反射
	VF(1,1)=1-VB(1,1);	%接地端での負反射
end

両開放端でのサージ電圧の往復反射

次に,送電端も受電端もいずれも開放端であったときを考える。電流の大きさ 1 A の直流電流源を 1 ms で投入したのサージ電圧の伝搬を考える(理想的な直流電流源の内部抵抗は $\infty$)。

両開放端でのサージ電圧の伝搬・反射
両開放端でのサージ電圧の伝搬・反射

電源端(0 km),電線路の中間地点(30 km),電線路の末端(60 km)の電圧波形は以下のようになる。

電源端(0 km)の電圧波形
電源端(0 km)の電圧波形(両開放端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電源端では,スイッチを投入する 1 ms 直後は,サージインピーダンス 500 Ω と電流 1 A の積である 0.5 kV の電圧となる。電流サージが末端で全反射し,さらに電源端でも全反射するスイッチ投入後から 0.4 ms (2 片道 × 60 km ÷ 300 m/μs)には,電流値は 3 A となり,電圧は 1.5 kV となる。以後,0.4 ms 毎に電圧値が 1 kV ずつ上昇していく。(積み上げ現象)

電線路の中間地点(30 km)の電圧波形
電線路の中間地点(30 km)の電圧波形(両開放端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電線路の中間地点(30 km)では,スイッチ投入後,0.1 ms (30 km ÷ 300 m/μs)で 1 A の電流サージが到達し,電圧はサージインピーダンス 500 Ω と電流の積で 0.5 kV となる。この電流サージが電線路の末端で正反射し,中間地点に到達する 0.2 ms ((30 km + 30 km) ÷ 300 m/μs)後,電流は 2 A となり,電圧は 1 kV となる。以後も 0.2 ms 毎に電圧が 0.5 kV ずつ上昇していく。

電線路の末端(60 km)の電圧波形
電線路の末端(60 km)の電圧波形(両開放端でのサージ電圧の伝搬・反射)

電線路の末端(60 km)では,スイッチ投入後,0.2 ms (60 km ÷ 300 m/μs)で 1 A のサージ電流が到達し,電圧はサージインピーダンス 500 Ω と電流の積で 0.5 kV となり,それが開放端で正反射し,1 kV となる。この正反射したサージ電流が電線路の末端で正反射し,第 1 のサージ電流到達から0.4 ms (2 片道 × 60 km ÷ 300 m/μs)後,電圧は 2 kV となる。以後も 0.4 ms 毎に電圧が 1 kV ずつ上昇していく。

鉄塔への雷撃と鉄塔塔頂電圧

基本的な現象を説明するために,「発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド」で用いられる 4 段鉄塔モデルではなく,下図で示す一定のサージインピーダンス $Z_{t1}$(塔頂~アーム部,220 Ω,長さ 9 m),$Z_{t2}$(アーム部~塔脚,150 Ω,長さ 51 m)を持つ分布定数の鉄塔を考える。架空地線のサージインピーダンス $Z_{g}$ は 350 Ω,電力線のサージインピーダンスは $Z_{p}$ は 500 Ω,架空地線と電力線の間の相互サージインピーダンス $Z_{m}$ は 150 Ω,塔脚接地抵抗 $R_{f}$ は 10 Ω とする。

鉄塔への雷撃と鉄塔塔頂電圧
鉄塔への雷撃と鉄塔塔頂電圧

t = 0 μs に下図で示すような 1/70 μs,100 kA の雷撃電流が塔頂に雷撃した場合を考える。

雷撃電流波形
雷撃電流波形

塔頂電圧波形

架空地線のサージインピーダンスを $Z_g$,鉄塔のサージインピーダンスを $Z_t$ とすると,塔頂から見た架空地線と鉄塔の合成インピーダンス $Z$ には,以下の関係が成り立つ。

\[ \frac{1}{Z} = \frac{1}{Z_g} + \frac{1}{Z_g} + \frac{1}{Z_t} \]

よって,合成インピーダンス $Z$ は,次式となる。

\[ Z = \frac{Z_g Z_t}{Z_g + 2Z_t} \]

雷撃電流を $I$ とすれば,雷撃直後,塔頂には直線的に増加する電圧 $IZ$ が発生する。塔頂に生じた電圧は,塔脚へ進行する。もし,塔脚へ向かったサージが戻ってこなければ,塔頂の電圧は $IZ$ で上昇を続け,雷撃電流 $I$ に相似な形となる。

塔頂から塔脚へ向かって進行したサージが塔脚へ到達すると,塔脚接地抵抗 $R_f$ は鉄塔下部のサージインピーダンス $Z_{t2}$ より小さいため,サージ電圧の負反射が生じ,逆極性のサージ電圧となり塔頂へ向かって進行する。

塔脚で反射したサージは,鉄塔の高さ 60 m,サージ伝搬速度 300 m/μs の場合,0.4 μs (2 片道 × 60 m ÷ 300 m/μs)で塔頂へ戻る。雷撃電流の波頭長 1 μs よりも鉄塔内のサージ往復時間が小さいので,塔頂電圧の最大値を減少させる。

塔脚から塔頂へ戻ったサージは,鉄塔上部のサージインピーダンス $Z_{t1}$ と架空地線のサージインピーダンス(鉄塔の両側にあるので $Z_g /2$)の不整合で正反射または負反射し,再び塔脚へ向かって進行する。ただし,この 2 つのサージインピーダンスの比はあまり大きくないので,塔脚へ戻る反射はかなり小さい。

塔頂に発生する電圧値は,ランプ波の雷撃電流を用いた場合,雷撃電流波形の波高値の時点に一致する。その後,塔脚からの反射波の影響を受けて,塔頂電位は減少する。さらに,サージが鉄塔内で往復伝搬を繰り返すうちに急激な変化部分が減少し,等価的なインピーダンスが減少する。この現象によって,塔頂からみた鉄塔は,等価的に小さいなインピーダンスを持つ塔体部と塔脚接地抵抗との直列回路へと変化する。すなわち,塔頂電位は,塔体へ流入する電流と塔脚接地抵抗でほぼ決まる電位(1 000 kV = 10 Ω × 100 kA)へ収束する。

塔頂電圧波形
塔頂電圧波形

アーム電圧波形

塔頂から塔脚へ向かって進行するサージがアームに到達する時刻 0.03 μs (9 m ÷ 300 m/μs)後から,ほぼ塔頂電圧波形と相似な電圧波形となる。鉄塔の上部と下部でサージインピーダンスを 220 Ω と 150 Ω としたが,塔頂へ戻るサージは小さい(約 2 割が負反射)。

アーム電圧波形
アーム電圧波形

電力線電圧波形

鉄塔塔頂の架空地線には,塔頂電圧と同じ電圧が発生し,電力線にはその架空地線からの誘導により,電圧が生じる。その電圧 $V_p$ は,次式で表される。

\[ V_p = \frac{Z_m}{Z_g} V_t = \frac{150}{350} V_t = 0.439 V_t \]

電圧波形は,塔頂電圧と相似波形になる。

電力線電圧波形
電力線電圧波形

問題

  1. 雷撃電流の大きさ,波尾長は一定とし,波頭長を 0.2 μs,1 μs(基本ケース),2 μs と鉄塔塔頂電圧はどのように変化するか。【問題 1 の解答と解説
  2. 鉄塔の高さを 30 m,60 m(基本ケース),200 m と変えたとき,鉄塔塔頂電圧はどのように変化するか。【問題 2 の解答と解説
  3. 塔脚接地抵抗を 1 Ω,10 Ω(基本ケース),200 Ω と変えたとき,鉄塔塔頂電圧はどのように変化するか。【問題 3 の解答と解説

避雷器による過電圧抑制

線路 1 から波頭峻度 $s$ [kA/μs] の直線上昇波電圧が進行してきた時の避雷器の効果を考える。避雷器は点 A に設置し,点 A から開放端の点 P までの距離を 30 m とする(線路 2 のサージ片道伝搬時間 $\tau$ は 0.1 μs = 30 m ÷ 300 m/μs)。ただし,単純化するため,線路 1 と線路 2 のサージインピーダンスは等しく,避雷器は制限電圧 $E_a$ の理想避雷器,交流電圧の重畳は加味しない。

避雷器による過電圧抑制
避雷器による過電圧抑制

線路 1 から線路 2 への透過係数を $\alpha$,線路 2 から線路 1 への透過係数を $\beta$,線路 2 の線路 1 に対する反射係数を $\sigma$ とすると,線路 1 と線路 2 のサージインピーダンスは等しくので,$\alpha = 1$,$\beta = 1$,$\sigma = 0$ である。

避雷器が動作する時間 $t$ までに線路 2 に侵入する電圧 $v$は次式となる。

\[ v = st \]

時刻 2$\tau$ 以前に A 点電圧が $E_a$ に達する場合

時刻 2$\tau$ における A 点電圧が $E_a$ 以上になる条件である。

\[ 2s\tau \ge E_a \]

A 点電圧が $E_a$ になる時刻を $t_a$($t_a \le 2\tau$)とすると,その時点で線路 2 に侵入する変化分は次式となる。

\[ st_a = E_a \]

時刻 $t_a$ 以降は避雷器で A 点電圧が抑制されるので,$st_a$ 以上の電圧は線路 2 に侵入しない。したがって,開放端 P 点の最大電圧 $V_{pm}$ はこの変化分の 2 倍となる。

\[ V_{pm} = 2 E_a \]

P 点から A 点に戻った時点では,A 点電圧は避雷器の動作によって $E_a$ に固定されているので,A 点に戻った電圧の変化分をキャンセルするような P 点に戻る電圧が生じる。以上を数値解析した結果を次図で示す。点 A を通過した 1 μs の 0.1 μs後に線路端に電圧サージが到達する。1.16 μs(600 kV ÷ 10 000 kV/μs)以降は,避雷器制限電圧の 2 倍の電圧値 1200 kV で一定となる。1.3 μs から1.36 μsにおいて,A 点からの負反射で電圧が 0 kV まで減少する。1.5 μs から再び電圧の上昇を始め,以後,それを繰り返す。

線路端電圧(s = 10000 kV/μs)
線路端電圧(s = 10000 kV/μs)

時刻 2$\tau$ 以前に A 点電圧が $E_a$ に達しない場合

これは時刻 2$\tau$ における A 点電圧が $E_a$ 以下になる条件である。

\[ 2s\tau \le E_a \]

P 点からの反射波が A 点に戻った以降は,A 点電圧 $e_A$ は線路 1 を進行してきた電圧 $st$,P点から戻ってきた電圧 $s(t-2\tau)$ である。

\[ e_A = st+s(t-2\tau) \]

A 点電圧 $e_A$ が $E_a$ に達する時刻を $t_a$($t_a \ge 2\tau$)とすると,次の関係が成り立つ。

\[ st_a = (E_a-2s\tau)/2 \]

$s = 2 000$ [kV/μs],$E_a = 600$ [kV],$\tau = 0.1$ [μs] を代入すると,$t_a= 2.5$ [μs] となる。

また,P 点ではこの 2 倍の電圧となり,P 点の最大電圧は次の通り。

\[ V_{pm}=2st_a = E_a +2s\tau = 600 + 2\times2000\times0.1=1 000 \]

$t_a$ 以降は増加を続ける線路 1 からのサージによって避雷器は動作を継続し,A 点電圧が $E_a$ に固定される。その結果,$t_a$ 以降 $2\tau$ の間,P 点から A 点に到達する電圧は峻度 $s$ で増加しているので,その間は A 点から P 点に向かう電圧は峻度 $-s$ で減少する。さらに,$t_a+\tau$ から $2\tau$ の間は,この峻度 $-s$ で減少する電圧が P 点から A 点に到達するので,A 点から P 点に戻る電圧は峻度 $s$ で増加する。よって,P 点の電圧波形は次図となる。

線路端電圧(s = 2000 kV/μs)
線路端電圧(s = 2000 kV/μs)

問題

  1. 避雷器と開放端との間の距離を 10 m,30 m(基本ケース),60 m と変えたとき,開放端電圧はどのように変化するか。【問題 1 の解答と解説
  2. 開放端(基本ケース)ではなく,キャパシタンス 1 000 pF,3 000 pF が存在していた場合,P 点の電圧はどのように変化するか。【問題 2 の解答と解説
  3. 線路 2 をケーブル(サージインピーダンス 30 Ω,伝搬速度 180 m/μs,単位長当たりの抵抗 0 Ω/m)とした場合,開放端 P の電圧波形はどのように変化するか。【問題 3 の解答と解説
  4. 理想的な避雷器を現実的な避雷器とした場合,開放端 P の電圧波形はどのように変化するか。【問題 4 の解答と解説

参考文献

  1. 雷リスク調査研究委員会 発変電雷リスク分科会,「発変電所及び地中送電線の耐雷設計ガイド」,電力中央研究所 総合報告 H06,2012 年 9 月
  2. 平山 博,大附 辰夫 著,「電気回路論[2 版改訂]」,電気学会
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