平成26年度 第1回 専門的能力・通信線路
問1
(1) メタリック伝送線路における反射の諸特性
伝送路の特性インピーダンスが変化する点では、信号波が折り返す反射現象が生ずる。このとき、一般に、進行してきた信号波は入射波、進行方向とは反対の方向へ戻っていく波は反射波、反射点で反射せず進む波は透過波といわれ、反射の大きさは特性インピーダンスの変化の大きさに依存する。
反射の大きさを表す指標として反射係数が用いられ、図に示すような特性インピーダンス $Z_0$ の一様線路をインピーダンス $Z_1$ で終端した場合、接続点における電圧反射係数の値は 0.2 となる。また、図において、接続点が開放されている場合、終端のインピーダンスは無限大と考えられる。したがって、終端開放時の入射電圧は入射波と同位相でほとんどすべて反射される。
特性インピーダンスの異なる線路を接続した複合線路でも、同様に、接続点で反射が生ずることから、実際の線路においては、できるだけ特性インピーダンスを均一にすることにより、反射損失を抑えることが重要である。

電圧反射係数 $\Gamma$ は次式で求められる。
\[ \Gamma = \frac{Z_1-Z_0}{Z_1+Z_0}=\frac{300-200}{300+200}=0.2 \]接続点が開放されている場合($Z_1 \to \infty$),電圧反射係数は 1 となる。したがって、終端開放時の入射電圧は入射波と同位相でほとんどすべて反射される。
\[ \lim_{Z_1\to\infty}\Gamma =\lim_{Z_1\to\infty}\frac{Z_1-Z_0}{Z_1+Z_0}=1 \](2) メタリック伝送線路の電気的諸特性
(ⅰ) 雑音とひずみの種類、特徴など
- 基本雑音は、入力信号の有無に関係のない雑音で、増幅器や変調器などの能動回路で発生し、熱雑音、ショット雑音、$\displaystyle \frac{1}{f}$ 雑音などがある。基本雑音は、一般に、入力信号レベルの低いところで問題となる。(正)
- 雷、電気鉄道などの強電流施設から静電的又は電磁的結合により通信路に侵入する雑音は流合雑音といわれ、放送波などが架空ケーブルなどを介して侵入する雑音は過負荷雑音といわれる。(誤)
- 非直線ひずみは、増幅器や変調器の入力と出力が比例関係にないために生ずるひずみであり、波形ひずみの原因となる。非直線ひずみには、入力信号の整数倍の周波数成分を持つ高調波ひずみ、複数の入力信号の組合せによる相互変調ひずみなどがある。(正)
- 伝送系の減衰量が周波数に対して一定でないために生ずるひずみは、減衰ひずみといわれる。音声回線において、特定の周波数で減衰量が特に少ないと、その周波数において鳴音が発生しやすくなる。(正)
いずれも「誘導雑音」である。
(ⅱ) メタリック伝送線路における漏話など
- 静電結合による漏話は被誘導回線の特性インピーダンスに比例し、電磁結合による漏話は誘導回線の特性インピーダンスに反比例する。(正)
- 平衡対ケーブルの場合、一般に、誘導回線と被誘導回線の特性インピーダンスは等しいので、特性インピーダンスが高くなる低周波では静電結合による漏話が支配的であるが、特性インピーダンスが低くなる高周波では電磁結合による漏話も考慮する必要がある。(正)
- 漏話減衰量は、誘導回線の送端電力と、被誘導回線の漏話電力(漏話量)の比の対数で表され、漏話電力が大きいほど漏話減衰量は大きく、漏話電力が小さいほど漏話減衰量は小さい。(誤)
漏話減衰量 $L$ [dB] は、誘導回線の送端電力 $P$ [mW] と被誘導回線の漏話電力 $P_L$ [mW] の比であり、次式で表される。漏話減衰量は,誘導回線の送端電力と,被誘導回線の漏話電力(漏話量)の比の対数で表され,漏話電力が大きいほど漏話減衰量は小さく,漏話電力が小さいほど漏話減衰量は大きい。
\[ L = 10 \log_{10}{\frac{P}{P_L}} \](3) 希土類添加光ファイバの特徴、光ファイバの伝搬特性
(ⅰ) 希土類添加光ファイバの特徴などに
- 光ファイバに異種又は同種の希土類イオンが高濃度に添加されている場合、希土類イオン間でエネルギー移動が起こることがあり、濃度消光や増感作用の原因となる。(正)
- EDF のコア径及び素線径は、伝送用光ファイバと同じであるが、クラッド径は増幅性能を向上させるため、一般に、伝送用光ファイバより細くなっている。(誤)
- EDF のコアには、増幅動作のためのエルビウムと屈折率プロファイル形成用のアルミニウムのほか、波長特性平坦化のためのゲルマニウムが添加されているものがある。(誤)
- EDF の利得係数はエルビウムの添加濃度を高めることで大きくできるが、高濃度になるとラマン効果により波長分散が大きくなるため、高濃度化には限界がある。(誤)
正しくは,2.「コア径とクラッド径が逆」,3.「アルミニウムとゲルマニウムが逆」,4.「濃度消光により励起起効率は低下するため」である。
(ⅱ) 光ファイバの伝搬特性
- 光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには、規格化周波数 $V$ が用いられ、空気中の光の波長を $\lambda$、コアの半径を $a$、コアの屈折率を $n_1$、クラッドの屈折率を $n_2$ とすると、$\displaystyle V = \frac{2\pi a}{\lambda}\times\sqrt{n_1^2-n_2^2}$ で表すことができる。(正)
- SI 型光ファイバにおいて、コアとクラッドの境界面を反射しながら進む光波が光ファイバの伝搬モードになるためには、コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が、光波の 1 往復に伴って $\displaystyle \frac{1}{2\pi}$ の整数倍になる必要がある。(誤)
- SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は、光強度分布がガウス型で近似できるとき、光強度(光パワー)が最大値の $\displaystyle \frac{1}{\sqrt{e}}$ となる直径をいう。ただし、$e$ は自然対数の底とする。(誤)
正しくは,B.「光波の 1 往復に伴って $2\pi$ の整数倍」,C.「光強度(光パワー)が最大値の $\displaystyle \frac{1}{e^2}$ となる直径」

問2
(1) 光ファイバへの光の入射
発光源から出射された光は回折現象により広がることから、細い光ファイバのコアに入射させるためには、レンズなどを用いて集光する工夫がなされている。
図において、光ファイバに入射した光がコア内をクラッドとの境界で全反射して伝搬するためには、コアからクラッドへの光の入射角を $\phi_\text{C}$ より大きくする必要があり、このときの入射角 $\phi_\text{C}$ は臨界角といわれる。
空気、コア及びクラッドの屈折率をそれぞれ $n_0$、$n_1$ 及び $n_2$ とし、最大受光角を $\theta_\text{max}$、コアに入射した光とコアとクラッドの境界面とのなす角度を $\theta_\text{C}$とするとき、$\theta_\text{max}$ と $\theta_\text{C}$ の間には、スネルの法則により $n_0 \sin{\theta_\text{max}} = n_1 \sin{\theta_\text{C}}$ が成り立つ。
また、$\sin{\theta_\text{max}}$ は開口数といわれ、$n_0 = 1$ 及び $n_1 \approx n_2$ とすれば、$\sin{\theta_\text{max}} \approx n_1\sqrt{2\Delta}$ となる。ここで、$\Delta$ はコアとクラッドの比屈折率差であり、$\displaystyle \frac{n_1 - n_2}{n_1}$ で表される。コアが受け入れられる光の量は、コア径と開口数の大きさで決まり、これらが大きいほど発光源と光ファイバとの結合効率が良くなる。
集光に用いられるレンズは、一般に、発光源からのビーム径と光ファイバの開口数により決定される。

「光ファイバケーブルの伝送理論」参照
(2) 光ファイバの特性、光ファイバと光デバイスとの結合損失、LD の特性
(ⅰ) MM 光ファイバの周波数特性及び伝送帯域
- ベースバンド周波数特性は、光ファイバがどこまで高い周波数の変調光信号を伝搬できるかを示すものであり、入射光信号と出射光信号の位相の差で表され、一般に、変調周波数が高くなるほど、また、距離が長くなるほど、周波数チャーピングの影響により光信号波形は劣化する。(誤)
- 伝送帯域は、ベースバンド周波数特性において、光信号を電気信号に変換した後の振幅が、変調周波数ゼロのときと比較して 6 [dB] 減衰するまでの周波数の範囲として求めることができる。(正)
- 伝送帯域特性は光ファイバのモードフィールド径に依存することから、GI 型光ファイバの伝送帯域特性は、一般に、その使用波長で伝送帯域が最大となるようにモードフィールド径が設計される。(誤)
- GI 型光ファイバの伝送帯域はモード分散と波長分散によって制限され、光源に LD を使用する場合には波長分散が、また、LED を使用する場合にはモード分散が伝送帯域を制限する主な要因である。(誤)
正しくは,1.「振幅比」「モード分散」,3.「コアの屈折率分布」,4.「下線部が逆」である。
ベースバンド周波数特性とは,光ファイバ伝送線路における正弦波の入力変調電気信号と出力の復調電気信号の振幅比の周波数特性をいう。

(ⅱ) 光ファイバ通信システムの特徴
- 光ファイバ通信システムにおいて、伝送距離を制限する要因は、光ファイバ損失、SN 比、伝送速度、送信光出力などである。無中継光ファイバ通信システムでは、光ファイバの損失と送信機の光出力が一定であるとき、伝送速度を上げたり受信信号の SN 比を大きくしようとすると、一般に、伝送距離は減少する。(正)
- 光ファイバ通信システムの伝送距離は中継伝送により延長することが可能である。中継伝送には、中継器でいったん光-電気-光変換を行う再生中継伝送と、光領域で増幅して伝送する線形中継伝送がある。(正)
- 再生中継伝送方式においては、一般に、等化回路によるリシェーピング、タイミング抽出回路によるリタイミング及び識別再生回路によるリジェネレーティングの 3R 機能を中継器にて実現している。(正)
- 線形中継伝送においては、光増幅器で生ずる自然放出光雑音の累積による光信号波形の劣化、光ファイバの分散によって生ずる SN 比の劣化など、再生中継伝送方式と比較して、伝送路で生じた雑音やひずみが累積しやすいという欠点がある。(誤)
下線部が逆である。
(ⅲ) 光ファイバと発光素子又は受光素子との結合損失など
- 発光素子と光ファイバとの結合損失は、一般に、LD の出射光ビームの形状が円形なのに対し、光ファイバのモード形状が楕円形であることから発生する。(誤)
- 発光素子と光ファイバとをレンズを用いて結合する場合、一般に、光ビーム広がりが大きい LED であっても、LD と同等の結合損失に抑えることができる。(誤)
- 発光素子と光ファイバとの結合において、SM 光ファイバと MM 光ファイバとでは、コア径が小さい SM 光ファイバの方が結合損失は小さい。(誤)
- 光ファイバと受光素子との結合において、SM 光ファイバと MM 光ファイバとでは、開口数が大きく光ビーム広がりが大きい MM 光ファイバの方が結合損失は大きい。(正)
正しくは,1.「」,2.「光ビーム広がりが大きい LED では,LD と比べて結合損失が大きい」,3.「コア径が大きい MM 光ファイバの方が結合損失は小さい」である。
(ⅳ) LD の特性など
- LD における注入電流と光出力の関係は、注入電流が帰還率を超えるところで誘導放出によるレーザ発振が起こり、光出力は急激に大きくなる。このとき、光出力は注入電流に対して2 次関数的に増加する。(誤)
- LD には、複数の縦モードで発振する多モードレーザ及び単一の縦モードで発振する単一モードレーザがあり、単一モードレーザの一つに DFB レーザがある。(正)
- 光通信用 LD の発光素子の材料には、ガリウム、ヒ素、インジウムなどが用いられ、これら材料の組成比などにより、LD の発振波長が決まる。(正)
正しくは「比例(1 次関数的に増加)」である。
問3
(1) 光ファイバの構造、特徴
光ファイバケーブルの製造時や使用時において破断強度を低下させるクラックの発生を防ぐため、光ファイバ表面を 1 次被覆で保護したものは、光ファイバ素線といわれる。
石英系光ファイバ素線の 1 次被覆材料には、一般に、紫外線硬化型樹脂が用いられ、光ファイバ素線の外径の標準寸法は、250 [μm] である。さらに、光ファイバ素線の外側に 2 次被覆を設けたものは、光ファイバ心線といわれる。
2 次被覆材料には、一般に、押出成型時の収縮が少なく硬い性質のナイロンが用いられる。2 次被覆材料としてのナイロンは、ガラスと比較して、熱膨張係数が大きいため、低温環境では、被覆が収縮して光ファイバに曲がりを与えマイクロベンド損失が増加する場合がある。また、引張りひずみは、光ファイバ表面に存在する微小なクラックの成長を助長し、破断を引き起こす場合がある。このため、2 次被覆はその効果と悪影響とをバランスさせるように設計する必要がある。
「通信ケーブルの種類・特性及び適用」参照
(2) 光コネクタ、光ファイバケーブルの接続技術
(ⅰ) 光コネクタ
- 光コネクタは、着脱が容易である反面、端面に汚れが付着しやすく、汚れが付着すると光損失が増加する。このため、光コネクタを接続する際は、アルコールに浸したワイプ紙、光コネクタクリーナなどで端面を清掃するなど、取扱いに注意が必要である。(正)
- MT コネクタは、多心光ファイバテープ心線の一括接続に使用されるネジ締結方式の多心光コネクタであり、精密に位置決めされたガイドキーによって 1 対のフェルールが高精度に位置決めされ接続される。(誤)
- メカニカルスプライス法による現場組立光コネクタは、コネクタ部品に内蔵された端面研磨済みの光ファイバと接続する光ファイバとをメカニカルスプライス法により接続するもので、メカニカルスプライス部にはあらかじめ屈折率整合剤が入っている。(正)
正しくは「ピンかん合方式」である。
(ⅱ) 光コネクタのフェルール材質、端面研磨方法など
- 光コネクタのフェルール材質として、主なものには、ジルコニア、プラスチック及びステンレスがある。ジルコニアは金属の一種であり、信頼性と耐久性に優れ、精密加工ができる硬さと現場での成型加工が可能な柔らかさを併せ持つ特徴がある。(誤)
- 光コネクタの端面研磨方法のうち、フラット研磨は、端面を平面に研磨する方法である。この研磨方法はフェルールが金属の場合などに用いられ、一般に、光ファイバの先端がフェルールの端面より内側になるため、光ファイバ接続点の隙間においてフレネル反射が生じ、接続損失や反射量が大きくなる場合がある。(正)
- 光コネクタの端面研磨方法のうち、PC 研磨は、端面を凸球面状に研磨する方法である。凸球面状に研磨すると、光ファイバの先端が理想球面より多少削られくぼんだ状態になるが、コネクタのバネによりフェルールが押されることで先端部が弾性変形を起こし、光ファイバ端面どうしを直接接触させることができる。(正)
- 光コネクタの端面研磨方法のうち、斜め研磨は、端面を斜め 8 度に球面研磨する方法である。斜め研磨することで、接続点で発生した反射光を光ファイバのクラッド方向に反射させ、反射減衰量を大きくすることができる。(正)
正しくは「セラミックス」である。
ジルコニア(二酸化ジルコニウム,化学式 : ZrO2)は,ジルコニウムの酸化物である。常態では白色の固体。融点が 2 700 °C と高いため,耐熱性セラミックス材料として利用されている。また,透明でダイヤモンドに似て高い屈折率を有することから,模造ダイヤとも呼ばれ,宝飾品としても用いられている。
(ⅲ) 光ファイバの接続技術など
- メカニカルスプライスは、光ファイバの端面どうしを近接させた状態で固定・把持して接続する方法であり、光ファイバを表面に凹凸のない直線状の V 溝と押さえ板の間にできる空間に沿って固定し、近接させた端面を補強スリーブで保護して接続する。(誤)
- 光コネクタ接続は、メカニカルスプライスと同様に、光ファイバの軸を合わせて端面を近接させる構造となっており、1 本又は複数本の光ファイバを接続することができる。(正)
- 融着接続、メカニカルスプライスなどにおいて、光ファイバを低損失で接続するためには、光ファイバ端面を傾斜、欠け、突起などのない良好な状態とすることが重要である。このため、光ファイバを切断する場合には、光ファイバ軸に直角で平滑な端面を得るため、一般に、疲労破壊の原理を用いた光ファイバケーブルカッタが用いられる。(誤)
正しくは,A.「近接した端面どうしの間に屈折率整合剤を注入して接続する」,C.「脆性破壊(変形しないで突然に壊れてしまう性質を脆性といい,このような壊れ方を脆性破壊という)の原理」である。
(ⅳ) 光ファイバ接続時の調心法など
- コア調心法は、光ファイバに光を照射し、光ファイバのコア位置を認識させて軸合わせを行う方法であり、一般に、コア径が細い光ファイバを低損失に接続する場合に用いられる。(誤)
- コア調心法は、光ファイバの側面に照射された平行光が、空気からクラッド、クラッドからコアを透過する際に材料分散により生ずる光のコントラストを利用しており、コアと比較して分散量の小さいクラッド部が明るい領域として識別できる。(誤)
- 外径調心方式の融着接続機は、固定 V 溝上に光ファイバを整列させ、コア調心を行わず、放電によって加熱・溶融された光ファイバの表面張力による自己調心作用を利用して軸合わせを行う。(正)
- コア調心方式の融着接続機は、調心したコアの位置が自己調心作用によってずれが生じないようにするため、外径調心方式の融着接続機と比較して、放電時間を長く設定する必要がある。(誤)
正しくは,1.「」,2.「屈折率の違い」,4.「」である。
コア調心法とは、光源からの光を光ファイバ内に透過させ、コアとクラッドの屈折率の違いにより生ずるコントラストによって、コアの位置を認識させ軸合わせを行う方法である。
問4
(1) 光ファイバ心線対照技術
光回線の開通時や故障修理時などにおいて取り扱う光ファイバ心線数が多くなると、光ファイバ心線取出し時などに心線番号間違いを起こしやすくなる。そのため、光ファイバ心線対照機能を有する ID テスタなどを用いて、該当の光ファイバ心線を特定することにより、誤切断や誤接続を回避することが重要である。
ID テスタの光源には、自然光や通信光の漏れ光などを誤検出することを防止するため、一般に、540 [kHz] の周波数で変調した対照光を用いている。試験光検出器の曲げ部は、対照する光ファイバ心線を湾曲させることにより漏洩する対照光を受光素子で検出するもので、対照光を低減することなく通信光の曲げ損失を小さく抑えるために、左右非対称な湾曲形状になっているものがある。
アクセス区間などに使用されている、曲げに強く、曲げても光が漏洩しにくい R15 mm 光ファイバ心線の対照には、微弱な漏洩光でも検知可能な透過型曲げ部が使用される。透過型曲げ部に使用される透過性部材は、光ファイバ被覆からの漏洩光を効率的に部材内部へ伝搬させるため、光ファイバ被覆と同程度の屈折率を有している。
「通信ケーブル監視技術」参照
(2) OTDR の機能、光ファイバケーブルの測定
(ⅰ) OTDR の機能及び特徴
- OTDR は、入射端側に戻るレイリー散乱光やフレネル反射光を利用して測定する方法を用いており、レイリー散乱光の強度は波長の 4 乗に比例するため、測定波長が長くなると OTDR に戻ってくる反射光レベルは高くなる。(誤)
- OTDR に戻る光信号は、光カプラを通して APD に入射され電気信号に変換されるが、APD のショット雑音などの雑音成分の影響を受ける。このため、測定時には、平均化処理を行うことにより SN 比を改善し、雑音の少ない波形としている。(正)
- OTDR による測定では、損失などを測定できない範囲として損失測定デッドゾーンと反射測定デッドゾーンの 2 種類があり、後者はフレネル反射のピークレベルから 0.5 [dB] での幅で定義されている。(誤)
正しくは,A.「反比例」「低く」,C.「1.5 [dB]」である。
(ⅱ) OTDR による光ファイバケーブルの測定
- OTDR による測定では、レイリー散乱により、被測定光ファイバケーブル入射端の光入力レベルが分からず、損失測定できない場合があるため、一般に、入射端側にダミー光ファイバケーブルを挿入して測定が行われる。(誤)
- OTDR による測定距離 $L$ は、真空中の光速を $c$、群屈折率を $n$、光パルスが被測定光ファイバに入射されてから後方散乱光が入射端に戻るまでの時間を $t$ とすると、$\displaystyle L = \frac{ct}{2n}$ の関係式で表される。したがって、OTDR 法で距離を測定する場合は、$n$ を正確に入力する必要がある。(正)
- 被測定光ファイバケーブルの入射端における後方散乱光レベルから SN 比が 1 となるフレネル反射点までの範囲はダイナミックレンジといわれ、ダイナミックレンジが大きい OTDR ほど、長距離測定が可能となる。(誤)
- 測定に使用する光パルス幅は、被測定光ファイバケーブルの距離により最適な値を選択する必要があり、一般に、幅の狭いパルスは、分解能は低いが光パワーが大きいため長距離測定に適している。(誤)
正しくは,1.「フレネル反射」,3.「光出射端近傍の後方散乱光レベルから SN 比が 1 となるノイズフロアまでの後方散乱光強度が測定できる範囲」,4.「幅の広いパルス」である。
(ⅲ) MM 光ファイバの伝送帯域の測定方法、特徴など
- 周波数領域での測定法は、正弦波状に強度変調された光を被測定 MM 光ファイバに入射し、被測定 MM 光ファイバから出射する光の変調周波数に対する減衰量から伝送帯域を測定する方法である。(正)
- 周波数領域での測定法の一つである周波数掃引法は、測定精度、測定の再現性などの点で優れていることから、伝送帯域測定方法の主流となっている。(正)
- 時間領域での測定法は、短パルスレーザ光を被測定 MM 光ファイバに入射し、被測定光ファイバの入出射端における光パルスをモード変換し、光ファイバの構造パラメータから伝送帯域を測定する方法である。(誤)
- 時間領域での測定法の一つであるパルス法は、一般に、周波数掃引法と比較して測定のダイナミックレンジが狭く、また、短尺光ファイバケーブルに対しては SN 比が低下するため測定精度が悪い。(正)
正しくは「フーリエ変換」である。
(ⅳ) SM 光ファイバの波長分散の測定方法、特徴など
- SM 光ファイバにおける波長分散の測定においては、波長分散の値を直接測定することは困難であるため、個別の測定によって得られる材料分散値と構造分散値の平均値から波長分散の値が求められる。(誤)
- パルス法の一つであるツインパルス法は、変調度の異なる二つの光パルスを被測定光ファイバに同時に入射し、測定される光パワーレベル差を定義式にあてはめて、波長分散を求める方法である。(誤)
- 位相シフト法は、正弦波変調された二つの波長の光が、光ファイバ中を伝搬したときに生ずる非線形光学効果と変調度の関係から波長分散を求める方法であり、変調周波数は測定する光ファイバの長さと分散量によらず一定に保つ必要がある。(誤)
- OTDR 法は、入射された光パルスが遠端にて反射され、戻ってくるまでの時間差を利用することにより波長分散を測定する方法であり、位相シフト法と異なり、片端測定が可能である。(正)
正しくは,1.「材料分散値と構造分散値を個別の測定によって得ることは困難」,2.「到着時間差」,3.「」である。
問5
(1) 光ファイバケーブルの布設・架渉技術
光ファイバケーブルの布設・架渉技術は、基本的に、メタリックケーブルの当該技術と同様の考え方が適用されるが、光ファイバケーブルの特徴を生かし、長スパンを一括布設することにより、布設作業の効率化、接続コストの低減などを図ることができるものとなっている。このため、光ファイバケーブルは、長スパン布設に耐えるだけの強度を持たせるためテンションメンバを配する構造とし、光ファイバケーブル布設時の伸びが、一般に、0.2 [%] 以下となるように設計されている。
曲がりが多く複雑な形状のルートに光ファイバケーブルを布設する場合には、ケーブルの先端のみに力を加えて牽引したのではケーブルの許容張力を超えることがあるため、途中に中間牽引機を設置する方法などが用いられる。
また、架空光ファイバケーブルの長スパン架設工法では、牽引方向のケーブルの弛みを感知してケーブルの繰出し速度を自動制御するケーブル自動繰出装置、牽引ロープの巻取り速度を自動制御する牽引ロープ自動巻取機などの複数の装置が、制御線を用いることなく、連係して光ファイバケーブルの布設が行われる。
(2) 通信ケーブルの外被構造、光ファイバケーブルの接続技術、光ファイバケーブルシステムの損失設計
(ⅰ) 通信ケーブルの外被構造など
- 屋外の地下管路やとう道などで使用されるケーブル外被構造として、一般に、PVC シースが使用され、難燃性が要求される屋内用のケーブルには、一般に、PE シースや LAP シースが使用される。(誤)
- ノンメタリック型ケーブルは、抗張力体にも金属材料を全く使用しない構造であり、一般に、送電線、鉄道沿いなどの誘導が問題となる強電界地域で使用される。(正)
- コルゲートシースケーブルは、波付きシースを施して外力に強い構造を有しており、一般に、散弾、鳥獣類などからの被害が多い架空区間で使用される。(正)
PE は耐候性に優れていることから,主に,屋外ケーブルで使用され,PVC は,主に,屋内ケーブルで使用される。
(ⅱ) 光ファイバケーブルの接続技術など
- 光ファイバケーブルの接続部には、一般に、光クロージャが用いられる。光クロージャは、過酷な自然環境条件下において心線接続部を長期的に保護するために必要なものであり、光ファイバ接続工事後も容易に心線の接続替えや光ファイバケーブルの追加・分岐ができるよう開閉可能な構造となっている。(正)
- 地下用光クロージャの心線収納部は、融着接続やメカニカルスプライスによる光ファイバ心線接続部及び心線余長をケーブル識別用タグを取り付けた状態で収納するためのスペースが確保されており、心線の増設や切換え作業において容易に心線を識別できる構造となっている。(誤)
- 地下用光クロージャは、マンホール及びとう道内における光ファイバケーブルの接続箇所に適用するため、限られたスペース内での高密度な心線収納性が要求され、1,000 心収納可能なものがある。(正)
- 地下用光クロージャには、スリーブの合わせ目を平面とし、シール材を用いずに水密性を確保する構造のものがある。また、スリーブは、光ファイバ心線接続部を外圧から保護するため、耐圧構造となっている。(正)
正しくは「回線」である。
(ⅲ) 無中継光ファイバケーブルシステム設計
無中継光ファイバケーブルシステム設計において、以下に示す条件の場合、最大伝送距離は 200 [km] である。
(条件)
- 光送信機の光出力レベルの変動範囲:0 [dBm] 〜 2 [dBm]
- 光受信機の正常動作を保証する光入力レベル範囲:-45 [dBm] 〜 -25 [dBm]
- 光ファイバケーブルの損失:0.2 [dB/km]
- システムマージン:5 [dB]
- 上記以外の損失は、考慮しないものとする。
光送信機の光出力レベルを 0 [dBm],光受信機での光入力レベルを -45 [dBm] の最低レベルで考える。最大伝送距離 $L$ [km] として,以下の方程式を解く。
(ⅳ) 曲線ルートとなっている地下管路区間モデル
図に示すような曲線ルートとなっている地下管路区間モデルにおいて、以下に示す条件でX点からY点へ光ファイバケーブルを布設する場合、Y点での張力は、1,400 [N] である。
(条件)
- 曲線部直前(X 点)の張力:400 [N]
- 摩擦係数 $\mu$:0.5
- 張力増加率:2.0
- ケーブル質量 $W$:0.6 [kg/m]
- 曲線区間の長さ $L$:100 [m]
- 交角 $\theta$:79 度
- 重力加速度 $g$:10 [m/s2]
- 曲線区間の張力増加率を考慮しない場合の張力:$g\mu LW$ [N]
- 光ファイバケーブルの布設ルートは平面とし,高低差はないものとする。

Y 点での張力は次式で求められる。