平成30年度 第2回 専門的能力・通信線路
問1
(1) 平衡対ケーブルの一次定数と二次定数
平衡対ケーブルは,長手方向に均一で一様な線路であり,その電気特性は分布定数回路として扱うことができる。この線路の往復導体の単位長さ当たりの抵抗を $R$,インダクタンスを $L$ とし,また,往復導体間の単位長さ当たりの漏れコンダクタンスを $G$,静電容量を $C$ とすると,これらの $R$,$L$,$G$,$C$ は,線路の一次定数といわれる。
一次定数から誘導される伝搬定数 $\gamma$ 及び特性インピーダンス $Z_0$ は,次式で表される。
\[ \gamma = \sqrt{(R + \text{j} \omega L)(G + \text{j} \omega C)} = \alpha + \text{j}\beta \] \[ Z_0 = \sqrt{\frac{R + \text{j} \omega L}{G + \text{j} \omega C}} = |Z_0|e^{\text{j}\phi} \]ただし,$\text{j}$ は虚数記号を,$\omega$ は伝送波の角周波数を,$\phi$ は特性インピーダンスの偏角をそれぞれ表し,$e$ は自然対数の底とする。
この伝搬定数 $\gamma$ の式において,実部 $\alpha$ は減衰定数,虚数部 $\beta$ は位相定数といわれ,これらの $\gamma$,$\alpha$,$\beta$,$Z_0$ は線路の二次定数と総称される。
「メタリックケーブル・同軸ケーブルの伝送理論」を参照。
(2) 非線形光学特性,非線形光学効果など
(ⅰ) 光ファイバ伝送における非線形光学特性など
- 光ファイバ伝送では,入力した信号光がコア内に閉じ込められるため単位面積当たりの光強度が大きくなること,低損失で長距離を伝搬するため媒質と光の相互作用長が長くなることなどにより,非線形光学効果が起きやすくなる。(正)
- 光ファイバの波長分散は,ゼロ分散波長より短波長側の正常分散領域と長波長側の異常分散領域に分けられ,光パルス信号のスペクトルが正常分散領域にあるときは,波長が長いスペクトル成分ほど群速度は速くなる。(正)
- 誘導ラマン散乱(SRS)及び誘導ブリルアン散乱(SBS)において,入射光より高周波数側に発生する散乱光は,ストークス光といわれる。(誤)
- SRS のストークス光は,入射光と同方向と逆方向の両方向に伝搬するのに対し,SBS のストークス光は,入射光と逆方向のみに伝搬する。(正)
正しくは「低周波数側」である。
ラマン散乱は,物質に光を入射したとき,散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が含まれる現象である。誘導ラマン散乱(Stimulated Raman Scattering : SRS)は,いくつかのストークス光子がすでに自発ラマン散乱により生成されている場合,もしくは意図的にストークス光(シグナル光)を元々の光(ポンプ光)と同時に入射している場合に生じる。
ブリルアン散乱は,光が物質中で音波と相互作用し,振動数がわずかにずれても散乱される現象のことである。レーザ光のような大強度のビームが光ファイバなどの媒質を伝搬するとき,ビーム自体の電場振動それ自身が電歪効果によって媒質に音響振動を生じさせうる。この振動によってビームは,通常入射方向とは逆に,ブリルアン散乱されることがある。この現象は誘導ブリルアン散乱(Stimulated Brillouin Scattering : SBS)と呼ばれる。光ファイバの中で発生する非線形光学現象。あるパワー以上の光を光ファイバに入射した場合,ほとんどの光信号が入射点で反射される現象をいう。
(ⅱ) 非線形光学効果
- 二つ以上の異なる波長の光が同時に光ファイバ中に入射したときに,それらのどの波長とも一致しない新たな波長の光が発生する現象は,一般に,四光波混合といわれ,WDM 伝送では,光の波長がゼロ分散波長より短く,大きく離れているほど四光波混合が発生しやすく伝送品質の劣化要因の一つとなる。(誤)
- 自己位相変調とは,入射された光自身の強度により位相が変化する現象をいい,これはファラデー効果による光ファイバの屈折率の変化に起因して発生するものである。ファラデー効果により,光パルスの前縁部分は高周波数側へ,光パルス後縁部分は低周波数側へシフトする。(誤)
- 媒質の音響的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は,ラマン散乱といわれ,入射光強度が十分大きい場合に生ずる誘導散乱は,SRS といわれる。(誤)
- SBS では,散乱が強く発生する帯域幅が狭いことから,強い誘導ブリルアン散乱光を発生させるためには,スペクトル幅の非常に狭い入射光が用いられる。(正)
WDM 伝送では,光の波長が等間隔であるほど四光波混合が発生しやすく伝送品質の劣化要因の一つとなる。
自己位相変調とは,入射された光自身の強度により位相が変化する現象をいい,これは光カー効果による光ファイバの屈折率の変化に起因して発生するものである。光カー効果により,光パルスの前縁部分は低周波数側へ,光パルス後縁部分は高周波数側へシフトする。(参考)自己位相変調(SPM)の原理 – 非線形屈折率変化 | オプティペディア - Produced by 光響
媒質の音響的格子振動と入射光の相互作用により新たな波長の光が発生する現象は,ブリルアン散乱といわれ
(3) 光信号の劣化要因,光の性質など
(ⅰ) 光信号の劣化要因など
- 波長によって伝搬速度が異なることに起因して生ずる分散は,波長分散といわれる。光通信に用いられる光パルスは,厳密には単一の波長ではなく波長の広がりを有しているため,波長によって伝搬時間に差が生ずることから,受信端でパルス幅が広がり信号が劣化する。(正)
- 光ファイバの製造過程では火炎加水分解反応が用いられており,光ファイバ中に OH 基が混入する場合がある。OH 基は光ファイバ中に 1 [ppm] 程度含まれているだけでも,吸収による伝送損失の増加要因となる。(正)
- SRS を利用した光増幅器であるファイバラマン増幅器は,光ファイバ伝送路を利得媒体として増幅するため,光信号を集中的に増幅させるシステムより低雑音なシステムが実現できるが,増幅可能な波長帯は,1.3 μm 帯に限定されている。(誤)
- 信号の時間軸方向の揺らぎにおいて,変動が 10 [Hz] 以上の揺らぎはジッタ,10 [Hz] 未満の揺らぎはワンダといわれ,一般に,ジッタは送受信回路中の電子回路内部の発振周波数の変動などによって発生し,ワンダは伝送路中の光ファイバ長の温度変化による伸縮などによって発生する。(正)
光ファイバラマン増幅器は,誘導ラマン散乱といわれる光ファイバの光学フォノンを利用しており,励起光波長を選択することによって,任意の波長を増幅できる。
(ⅱ) 光の性質など
- 光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると,入射側に近いところでは青い光が散乱し,残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ,散乱による損失の大きさは波長の 2 乗に比例する。(誤)
- 光の吸収は,一般に,任意の波長の光が伝搬媒質中に存在する物質によって吸収されて熱に変換される現象であり,光ファイバ中における吸収には,石英ガラス自体が持つ紫外吸収及び赤外吸収のほか,コアとクラッド間に屈折率差を設けるために添加される金属イオンなどによる不純物吸収がある。(正)
- 光のコヒーレンス性は,周波数軸上のスペクトル分布を測定することにより確認することができる。周波数軸上のスペクトル幅は,一般に,周波数や位相がそろったコヒーレンス性が高い光は 1 本の線状で狭く,また,周波数や位相がそろっていないコヒーレンス性が低い光は広がって観測される。(正)
光の波長に近い大きさの微粒子を含む透明な媒質に白色光を入射させると,入射側に近いところでは青い光が散乱し,残った赤い光が伝搬する。この現象はレイリー散乱といわれ,散乱による損失の大きさは波長の 4 乗に比例(または周波数の 4 乗に反比例)する。
問2
(1) 光ファイバへの光の入射など
発生源から出射された光は回折現象により広がることから,細い光ファイバのコアに入射させるためには,レンズなどを用いて集光する工夫がなされている。
図において,光ファイバに入射した光がコア内をクラッドとの境界で全反射して伝搬するためには,コアからクラッドへの入射角を $\phi_{\text{C}}$ より大きくする必要があり,このときの入射角 $\phi_{\text{C}}$ は臨界角といわれる。
空気,コア及びクラッドの屈折率をそれぞれ $n_0$,$n_1$ 及び $n_2$ とし,最大受光角を $\theta_{\text{max}}$,コアに入射した光とコアとクラッドの境界面とのなす角を $\theta_{\text{C}}$ とするとき,$\theta_{\text{max}}$ と $\theta_{\text{C}}$ の間には,スネルの法則より $n_0 \sin \theta_{\text{max}} = n_1 \sin \theta_{\text{C}}$ が成り立つ。
また,$\sin\theta_{\text{max}}$ は開口数といわれ,$n_0 = 1$ 及び $n_1 \fallingdotseq n_2$ とすれば,$\sin\theta_{\text{max}} \fallingdotseq n_1 \sqrt{2 \Delta}$ となる。ここで,$\Delta$ は比屈折率差であり,$\displaystyle \frac{n_1 - n_2}{n_1}$ で表される。コアが受け入れられる光の量は,コア径と開口数の大きさで決まり,これらが大きいほど発光源と光ファイバとの結合効率が良くなる。
集光に用いられるレンズは,一般に,発光源からのビーム径と光ファイバの開口数により決定される。

「光ファイバケーブルの伝送理論」参照
(2) 光ファイバの伝搬特性,フォトニック結晶光ファイバ,ファイバグレーティング光源と光ファイバの結合など
(ⅰ) 光ファイバの伝搬特性
- 光ファイバで伝搬可能なモード数を構造パラメータから求めるには,規格化周波数 $V$ が用いられ,空気中の光の波長を $\lambda$,コアの半径を $a$,コアの屈折率を $n_1$,クラッドの屈折率を $n_2$ とすると,$V$ は次式で表すことができる。(正)
- SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面をブリュースター角よりも小さな角度で反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $\displaystyle \frac{1}{2\pi}$ の整数倍になる必要がある。(誤)
- SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $\displaystyle \frac{1}{\sqrt{e}}$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。(誤)
- 基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ポアソン分布で近似することができる。(誤)
SI 型光ファイバにおいては,コアとクラッドの境界面をブリュースター角よりも小さな角度で反射しながら進む光波が存在するが,この光波が光ファイバの伝搬モードになるためには,コアの中心軸に直交する方向の位相変化量が,光波の 1 往復に伴って $2\pi$ の整数倍になる必要がある。
SM 光ファイバにおけるモードフィールド径は,光強度分布がガウス型で近似できるとき,光強度(光パワー)が最大値の $1/e^2$($e$ は自然対数の底)になるところの直径をいう。
基本モードにおける光強度分布は,コアの中心で最大値となり,中心から離れるに従って小さくなり,ガウス分布で近似することができる。

(ⅱ) フォトニック結晶光ファイバ(PCF)
- クラッド部に空孔を周期的に配列した構造の光ファイバは,一般に,PCF といわれ,光の導波原理により,フォトニックバンドギャップ型又は屈折率導波型に分類される。(正)
- フォトニックバンドギャップ型 PCF は,中空のコアにフレネル反射によって光を閉じ込めて伝搬するため,ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。(誤)
- 屈折率導波型 PCF は,一般に,コア部とクラッド部が同じガラス素材で構成されているが,クラッド部に設けられた空孔によりクラッド部の実効的な屈折率がコア部の屈折率と比較して小さくなるため,全反射によって光を閉じ込めて伝搬させることができる。(正)
フォトニックバンドギャップ型 PCF は,中空のコアにブラック反射によって光を閉じ込めて伝搬するため,ガラスの欠点である損失や分散による影響を小さくできる特徴がある。
(ⅲ) ファイバグレーティング(FG)
- FG は,光ファイバのコアに周期的な屈折率変化を形成することにより,特定の波長の伝搬光を選択的に反射又は阻止することのできる波長選択デバイスとして用いられ,同様の機能を有する光デバイスである多層膜光フィルタと比較して,伝送用光ファイバとの接続性に優れる。(正)
- FG は,グレーティング周期が数十 [μm] ~ 数百 [μm] の長周期型と,1 [μm] 以下の短周期型に分類される。長周期型はブラッグ波長の光を反射させる機能を,また,短周期型は特定の波長の光をクラッドモードに結合させて損失を与える機能を有し,いずれの型も分散補償器として用いられる。(誤)
- FG の温度特性は,光路の温度変化による屈折率変化と熱膨張によって決まり,石英ガラスを用いた FG の場合は,屈折率変化が支配的要因となっている。短周期型 FG を波長選択デバイスとして用いる場合には,一般に,FG を固定する台座の温度特性を利用するなどして温度補償が行われている。(正)
- FG の作製方法には,2 光束干渉法,位相マスク法などがある。位相マスク法は使用する位相マスクによりグレーティング周期が定まり,2 光束干渉法と比較して,同一のグレーティング周期を持つ FG を安定的に量産することができる。(正)
FG は,グレーティング周期が数十 [μm] ~ 数百 [μm] の長周期型と,1 [μm] 以下の短周期型に分類される。短周期型はブラッグ波長の光を反射させる機能を,また,長周期型は特定の波長の光をクラッドモードに結合させて損失を与える機能を有し,いずれの型も分散補償器として用いられる。
(ⅳ) レーザ光源と光ファイバとの結合方法など
- 光源からの光は,ドップラー効果により広がって放射されることから,光ファイバと効率良く結合させるために,光源に光ファイバの先端を単に近づける直接結合方式をベースにして,レンズを用いるレンズ結合方式,光ファイバの先端をレンズ状にした先端レンズ方式などが用いられる。(誤)
- 光源は,レンズなどの光学部品から反射された光が注入されると,レーザの発振が不安定になることから,光源モジュールには,一般に,反射光の帰還を阻止するための光アイソレータが組み込まれている。(正)
- 光源と光ファイバとの結合部は,光源,レンズ,光ファイバなどの光学部品が振動,温度・湿度の変化などによる影響を受けないようにするため,一般に,モジュール化されている。光源モジュールには,伝送用光ファイバと接続するためのピグテール光ファイバが取り付けられたものがある。(正)
光源からの光は,屈折や回折により広がって放射されることから,光ファイバと効率良く結合させるために,光源に光ファイバの先端を単に近づける直接結合方式をベースにして,レンズを用いるレンズ結合方式,光ファイバの先端をレンズ状にした先端レンズ方式などが用いられる。
問3
(1) 多重伝送技術
多重伝送技術は,複数の信号を一つの共有された伝送路で送る技術であり,高速大容量通信の実現だけではなく,双方向伝送のための技術としても用いられている。
上りと下り方向にそれぞれ 1 心ずつ別の光ファイバを割り当てる方式としては SDM 方式があり,光ファイバ 1 心で双方向伝送を実現する方式としては TCM 方式,WDM 方式などがある。
TCM 方式は,上りと下り方向のそれぞれの情報に対して時間差を設けて伝送することにより,光ファイバ 1 心で双方向伝送を実現している。この方式は,光ファイバが 1 心で済むため伝送路のコストを抑えることができるが,双方向伝送のために時間差を設けていることから伝送できる距離が制限される。
WDM 方式は,異なる複数の波長の光を 1 心の光ファイバで多重伝送することができるため,上りと下りの方向に別の信号波長を用いることにより,光ファイバ 1 心で全二重の双方向伝送が可能である。また,多重伝送技術としてこの方式を用いた中継系ネットワークの利点は,1 波長で伝送する場合と比較して,各波長の伝送速度を低く設定できるため,光ファイバの非線形性や分散特性による波形劣化が小さいことなどである。
SDM 方式は,Supace-division Multiplexing 方式の略称で,空間分割多重である。
TCM 方式(時間多重,Time Compression Multiplexing)は,1 心に同一波長を用いて上り信号と下り信号を交互に伝送する。いわゆる「ピンポン伝送」である。
WDM 方式は,Wavelength Division Multiplexing 方式の略称である。
(2) WDM 伝送技術,光変調方式の特徴,光ファイバ増幅器の利得など
(ⅰ) ITU-T 勧告で規定されている WDM 伝送技術など
- WDM の周波数グリッドは,光アンプを用いたマルチチャネルインタフェースの中で規定されており,基準の光周波数は 193.10 [THz] と定められている。(正)
- CWDM では,光周波数の有効利用を図るため,光周波数間隔が 12.5 [GHz],25 [GHz],50 [GHz],100 [GHz] 及び 100 [GHz] の整数倍となるように定められている。(誤)
- DWDM では,波長安定化の要求条件を緩和するため,波長間隔は 20 [nm] とされている。(誤)
「波長分割多重(WDM,CWDM,DWDM)とは | ファイバーラボ株式会社」「WDMテクノロジーの基礎:CWDMとDWDM | FSコミュニティ」参照
DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing : 密な波長多重)では,光周波数の有効利用を図るため,光周波数間隔が 12.5 [GHz],25 [GHz],50 [GHz],100 [GHz] 及び 100 [GHz] の整数倍となるように定められている。
CWDM(Coarse Wavelength Division Multiplexing)では,波長安定化の要求条件を緩和するため,波長間隔は 20 [nm] とされている。
(ⅱ) 光変調方式の特徴など
- 電気信号により LD の出力光を強度変調する方式には,直接変調方式と外部変調方式がある。外部変調方式は,駆動回路において LD にバイアス電流と変調信号を印加することにより変調光を得る方式である。(誤)
- 直接変調方式は,一般に,変調速度が 1 [GHz] 以上になると,光カー効果の影響により伝送距離に制限が生ずるとされている。(誤)
- LN 変調器は,導波路構造のマッハツェンダ干渉計構成をとり,電極に電圧を印加したとき,光弾性効果により導波路の屈折率が変化し,光の干渉状態が変わることを利用して出力光をオンオフ制御している。(誤)
- EA 変調器は,PN 接合のダブルヘテロ構造を持つダイオードに逆バイアスを印加したとき,電界吸収効果により導波層を通過する光が吸収されることを利用して出力光をオンオフ制御している。(正)
正しくは,1.「直接変調方式」,2.「波長チャーピング」,3.「ポッケルス効果」「光の位相」である。
直接変調方式は,駆動回路において LD にバイアス電流と変調信号を印加することにより変調光を得る方式である。
光ファイバ通信システムで用いられる外部変調方式は,LD から出射される無変調の光を変調専用のデバイス(外部変調器)を用いて変調するものであり,波長チャーピングが少なく,数 [GHz] 以上の高速変調が可能である。
LN 変調器は,導波路構造のマッハツェンダ干渉計構成をとり,電極に電圧を印加したとき,ポッケルス効果により導波路の光の位相が変化し,光の干渉状態が変わることを利用して出力光をオンオフ制御している。
(ⅲ) 光増幅器の利得,雑音指数の測定法など
- 光増幅器の利得は,光増幅器の入力端での信号光パワーに対する出力端での信号光パワーの比として定義され,入力信号光パワーが低い領域では一定の値を示し,この領域は非飽和領域,線形領域あるいは小信号領域といわれる。(正)
- 光増幅器の利得は,入力信号光パワーのほか,偏波面の変化によっても変動するため,利得測定中に信号光の偏波面が変化すると誤差を生ずることがあることから,偏波依存利得変動の大きい光増幅器の利得を測定する場合は,偏波スクランブルを行うか,測定ポイントごとに偏波面の調整を行う必要がある。(正)
- 光増幅器の入力側の SN 比と出力側の SN 比は,雑音指数といわれる。光増幅器の利得が 1 より十分大きい場合には,雑音指数の支配的要因は,増幅された信号光と ASE 光の間で発生するビート雑音と,ASE 光と ASE 光の間で発生するビート雑音である。(正)
- 利得と雑音指数の測定方法は,電気的手法と光学的手法に大別される。光学的手法は,利得測定において電気的手法と比較して ASE 光の影響を受けにくく,また,雑音指数の測定において雑音指数総和値の測定に適しており,光増幅器の実使用に近い状態での値が得られる。(誤)
正しくは「」である。
(3) 光ファイバ複合架空地線(OPGW)
- OPGW は,光ファイバの無誘導かつ,軽量という特徴を利用して,光ファイバを送電線の架空地線に内蔵し,本来の架空地線としての機能と通信機能を兼備させたものであり,一般に,光ファイバを収納する OP ユニットとアルミ覆鋼線を撚り合わせた架空地線部により構成される。(正)
- OPGW は,架空地線内への光ファイバ収納方法により,固定型と非固定型の 2 種類に大別される。固定型の一つであるスペーサ型は,一般に,アルミスペーサのら旋状の溝に光ファイバを収納し,これをアルミパイプで保護した構造であり,耐側圧特性を向上させている。(正)
- 架空地線は,電力線からの誘導電流,短絡事故などにより高温になる場合があることから,OPGW では耐熱特性に優れたシリコン被覆光ファイバなどが使用されている。(正)
OPGW は,Optical fiber composite overhead ground wire の略である。
問4
(1) 光ファイバ通信システムの基本構成
光ファイバ通信システムは,光アクセスシステムと光中継システムに大別される。
光アクセスシステムのネットワークトポロジは,設備センタとユーザ間を 1 対 1 で結ぶ SS 方式,設備センタとユーザ間に光スプリッタを設置し,光ファイバを分岐することにより複数のユーザに接続する PDS 方式,及び光スプリッタの代わりに電気的手段によりユーザ信号を多重化する装置などを設置した ADS 方式に分類される。
光中継システムは,一般に,光送受信装置,光ファイバケーブル及び中継器で構成される。送信側の光送信装置には,複数のデジタル信号を束ねる多重化装置と多重化された電気信号を光信号に変換する光送信器が設置され,光送信器に光の誘導放出現象を利用した半導体レーザが用いられる。受信側の光受信装置は,光信号を電気信号に変換する O/E 変換器と多重化された信号を元に戻す分離装置で構成される。伝送区間が長距離となり,雑音やひずみなどの影響により信号の識別が困難な状況になると,中継器が設置される。中継器で光信号を電気信号に変換し,再生後に光信号として送出する方式は再生方式といわれ,この方式には,三つの基本機能が必要となる。その一つであるリタイミングは,デジタル信号を正確に識別して再生するためのクロックパルスを抽出し,受信パルスを識別する時点を設定する機能である。
「アクセス系線路の伝送技術」「中継系光ファイバケーブルの伝送技術」参照
(2) 架空構造物の設計など
(ⅰ) 架空構造物の地上高
- 電柱の柱長は,架渉されるケーブルなどの地上高が,総務省令などに規定された必要地上高を確保できるように,根入れ深さ(根入れ長),頭部余長などを考慮して選定される。(正)
- 電柱などの架空構造物間に架渉されたケーブルなどの弛みの度合いは,一般に,弛度といわれ,弛度は,最低温度時に,架渉ケーブルが総務省令などに規定された必要地上高を確保できるように設計されなければならない。(誤)
- 弛度は,最高温度時に,甲種風圧荷重又は集中荷重が加わったときでも,吊り線又は支持線の強度の安全率が確保できるように設計されなければならない。(誤)
- 弛度が標準より小さいと,一般に,張力が標準より小さくなり,吊り線や支持線の切断,支線の破損などに至るおそれが生ずる。(誤)
正しくは,2.「最高温度時」,3.「最低温度時」,4.「大きく」である。
弛度は温度が高いと,大きくなる。また,弛度が大きくなれば,張力は小さくなる。
(ⅱ) 架空ケーブルに加わる張力,風圧荷重
- ケーブルを架渉したとき,ケーブルの長手方向に加わる張力 $T$ [N] は,弛度を $d$ [m],単位長さ当たりのケーブル荷重を W [N/m],スパン長を S [m] とすると,次式で表される。(正)
- 風向きに対して直角に向いた面の単位面積当たりの風圧荷重を $P$ [N/m2] とし,空気の密度を $\rho$ [kg/m3] 及び風速を $v$ [m/s] とすると,$P$ は,$\rho$ に比例し,かつ,$v$ の 2 乗に比例する。(正)
- 風圧荷重は,甲種,乙種及び丙種の 3 種類が定められており,このうち甲種風圧荷重は,鉄筋コンクリート柱においては垂直投影面の風圧が 780 [Pa],鋼管柱においてはその 1/2 の風圧が加わるものとして計算した荷重とすることが総務省令で定められている。(誤)
- 架渉されたケーブルの単位長さ当たりの荷重 $W$ [N/m] は,単位長さ当たりのケーブル重量 $w$ [N/m] と風圧荷重 $P_C$ [N/m] の合成荷重となり,次式で表される。(正)
鉄柱(鋼管により構成される四角形のもの)の甲種風圧荷重は,1470 Pa である。
有線電気通信設備令施行規則 第六条 風圧荷重の甲種風圧荷重の表を示す。
風圧を受ける物 | その物の垂直投影面の風圧 | |
---|---|---|
木柱又は鉄筋コンクリート柱 | 780 Pa | |
鉄柱 | 円筒柱 | 780 Pa |
三角柱又はひし形柱 | 1,860 Pa | |
角柱(鋼管により構成されるものに限る。) | 1,470 Pa | |
その他のもの | 2,350 Pa | |
鉄塔 | 鋼管により構成されたもの | 1,670 Pa |
その他のもの | 2,840 Pa | |
電線又はちよう架用線 | 980 Pa | |
腕金類又は函類 | 1,570 Pa |
(3) 光ファイバケーブルの破断箇所の探索方法など
- 破断した光ファイバに光パルスを入射すると,破断箇所での急峻な屈折率変化によりブラッグ反射が生じ,入射した光の一部が入射端に戻ってくる。OTDR は,光が入射端に戻ってくるまでの時間を測定し,距離換算することにより破断箇所を推定できる。(誤)
- 光ファイバの破断箇所は,一般に,OTDR を用いて破断の疑いのある箇所を推定し,推定された箇所付近を光ファイバ ID テスタ,可視光源などを用いて探索することにより特定される。(正)
- 接続用クロージャ内や光ファイバコードの破断箇所の確認には可視光源として,一般に,赤色 LD が使用されている。(正)
破断した光ファイバに光パルスを入射すると,破断箇所での急峻な屈折率変化によりフレネル反射が生じ,入射した光の一部が入射端に戻ってくる。
(4) 石英系光ファイバ及び光ファイバコードの強度,特性などの試験方法
- 光ファイバの強度は,引張試験,曲げ試験などによって評価される。引張試験及び曲げ試験は,破壊検査であり,この試験を行った光ファイバは実用に供することができないため,一般に,抜取りで行われる。(正)
- 光ファイバのスクリーニング試験は,強度が一定水準以下の光ファイバを取り除くための試験であり,ダンサローラ法,ダブルキャプスタン法などにより,一般に,全数試験が行われる。(正)
- 光ファイバの疲労特性には,静的疲労特性及び動的疲労特性がある。静的疲労特性の測定方法は,光ファイバに一定の応力を与えた状態で放置し,破断するまでの時間を測定するものであり,JIS において,光ファイバに一定のおもりをつり下げる方法,引張試験器を用いて破断するまでの一定のひずみ率速度で引き伸ばす方法などが規定されている。(誤)
- 光ファイバコードの機械的特性試験は,光ファイバコードに一定の外力を一定時間加えた後に外力を取り除き,光ファイバコードの外観及び光学的な導通状態の確認を行うものであり,JIS において,圧壊特性試験,衝撃特性試験などが規定されている。(正)
正しくは「」である。
問5
(1) 光ファイバ接続時の損失発生要因など
シングルモード光ファイバの接続点における損失は,接続される 2 本の光ファイバの位置決めが不完全であることにより生ずるものの影響が大きく,損失発生要因には光ファイバコアの軸ずれ,光ファイバの軸の傾斜及び端面間の間隙などがある。これら損失発生要因のうち,一般に,光ファイバコアの軸ずれによる損失が最も大きく,光ファイバコアの軸ずれによる接続損失値 $L_e$ [dB] は,コアの軸ずれを $d$ [μm],モードフィールド径を $w$ [μm] とすると,次式で近似値を求めることができる。
\[ L_e = 4.34 \times (\frac{d}{w})^2 \]融着接続において融着接続機のファイバクランプにゴミが付着していると,光ファイバを押さえる力が不均一になり軸ずれの原因となるため,光ファイバを融着接続機にセットする前に清掃を行う必要がある。また,光ファイバ接続部に気泡が見られる場合は,光ファイバの側面に傷をつけ曲げ応力で切断するときに生じた切断面の不良がその原因の一つとして考えられるため,一般に,光ファイバカッタの確認を行い接続をやり直す必要がある。
融着接続後は,著しく弱い接続部を除去するため,光ファイバに一定の荷重を一定時間加えてスクリーニング試験を行う。光ファイバの融着接続部は,緩衝層や被覆層が除去され石英ガラスが露出していることから,接続部の補強を行うために,熱収縮スリーブを用いた補強法が広く用いられている。
「通信ケーブルの敷設・接続方法」参照
(2) 光ファイバのメカニカルスプライス接続など
- メカニカルスプライス接続は,メカニカルスプライス素子を用いて光ファイバ端面を突き合わせ機械的に把持する永久接続法の一つである。(正)
- メカニカルスプライス素子の光ファイバ端面を突き合わせる部分には,一般に,光ファイバ端面の欠け,バリ,異物などによって生ずる光損失を補正するために,屈折率整合剤が充填されている。(誤)
- 単心用のメカニカルスプライス素子は,主に地下の区間において,配線系の光ファイバケーブルどうしの接続に用いられている。(誤)
- 複数の V 溝を設けた多心用のメカニカルスプライス素子は,マンホール内での幹線系光ファイバケーブルどうしの接続に広く用いられている。(誤)
正しくは,2.「接続する光ファイバ端面間の空気層を排除して接続部において屈折率が不連続になることを抑制するために」,3.「架空」,4.「架空」である。
地下では,屈折率整合剤が水分により流れ出てしまうおそれがあるため,メカニカルスプライス接続は用いられない。
(3) CATV システムにおける HFC 方式の構成など
- HFC 方式はヘッドエンドから光ノードまでを光ファイバケーブル,光ノードからユーザ宅までを同軸ケーブルにより構成することにより,同軸ケーブル方式と比較して広帯域な伝送が可能となっている。(正)
- HFC 方式の光ノードと同軸アンプには同軸網を利用して給電が行われ,一般に,直流により給電されている。(誤)
- HFC 方式で光映像配信技術として用いられる SCM 方式は,送信側において,周波数多重されたケーブルテレビ信号で光強度変調を行い,光ノードにおいてその光信号を電気信号に変換し,同軸ケーブルで配信する方式である。(正)
- HFC 方式に使用する光受信機には PIN - PD が用いられ,光入力レベルの調整にプラグ式やスイッチ式の光アッテネータが使用されている。(正)
正しくは「」である。
HFC(Hybrid fiber-coaxial)は,ケーブルテレビの配線方式の一種。CATV 局のセンター局(ヘッドエンド)から光ファイバで配線し,途中で光-電気コンバータによって各家庭には同軸ケーブルで配線する。FFTN(Fiber to the Node)や光ハイブリッドとも呼ばれる。
(4) 環境などの外的要因による線路設備への影響とその対策など
- 温度変化による伸縮や車両が通行することによる振動でケーブルが移動する現象はクリーピングといわれ,車両通行量が多い傾斜地や路面の凹凸が著しい直線道路,及び走行車両のほぼ真下に埋設されたケーブルにおいて,特に発生しやすい。(正)
- 寒冷地では,管路内の溜水が凍結することによりケーブルを圧壊し,故障を起こすことがある。ケーブルの圧壊を防止するには,管路内にケーブルと一緒に金属製パイプを布設することによりケーブルに加わる凍結圧を減少させる方法がある。(誤)
- リスのようなげっ歯類動物,コウモリガの幼虫などによるケーブル被害の対策には,HS ケーブルを用いるのが効果的であり,局部的な対策には,防リスシートを用いて防護する方法がある。(正)
寒冷地では,管路内の溜水が凍結することによりケーブルを圧壊し,故障を起こすことがある。ケーブルの圧壊を防止するには,管路内にケーブルと一緒に PE パイプを布設することによりケーブルに加わる凍結圧を減少させる方法がある。
(5) 光ファイバケーブルを布設する場合のけん引張力
図に示すような平面線形の地下管路区間において X 地点から Z 地点へ,以下に示す条件で光ファイバケーブルを布設する場合,Z 地点でのけん引力は,970 [N] である。ただし,重力加速度 $g$ は 10 [m/s2] とする。
(条件)
- 光ファイバケーブル質量:0.5 [kg/m]
- X ~ Y 間の布設距離:200 [m]
- Y ~ Z 間の布設距離:100 [m]
- 繰出し点 X の初期張力 100 [N]
- 摩擦係数 $\mu$:0.5
- 交角:20 度
- Y 点での張力増加率:1.2
- 光ファイバケーブルの布設ルートは平面とし,高低差はないものとする。

X ~ Y 間のけん引張力は次式で求められる。
Z 地点でのけん引力は,X ~ Y 間のけん引力に Y 点での張力増加率を乗じ,Y ~ Z 間でのけん引力を加えたものであり,次式で求められる。